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医療AIが同じ内容を繰り返すとき、記録側で何ができるか
AIが作った記録を読んでいて、同じ内容が言い方を変えて何度も出てくることがあります。ひどいときは、同じ短い文が何十回も続きます。
前に「出力が途中で切れる」という話を書きましたが、これは逆です。止まるべきところで止まらない。 読む人が「AIが勝手なことを書いた」と受け取るので、字数以上に困ります。
なぜ、同じ内容が繰り返されるのか
AIは次の一語を確率で選んでいます。同じ文を2回出した時点で、「もう一度同じ文を出すこと」がいちばん確からしくなります。 一度そこに入ると自力では抜けられません。
当初、私たちはこの偏りが出力のばらつきを小さくするほど強くなると考えていました。医療の記録では表現がぶれると困るため、ばらつきは小さく設定するのが普通だからです。
🔴 2026年9月16日 訂正。 他の条件を固定してばらつきを3水準で振り直したところ、繰り返しの起きる割合はほとんど変わりませんでした。 効いたのは設定ではなく、指示の書き方のほうです。詳しくは医療AIが記録を作りきれなかったとき、どこまで復旧できるかに、658回の再現実験としてまとめました。
もうひとつ、欄の性質も効きます。「観察したことを書く」欄は迷いようがありませんが、解釈が要る欄には判断のグレーゾーンがあります。 訪問看護でいえば、ご家族との関わりをどこまで書くか、といった欄です。ここでAIが迷うと、迷った過程そのものが本文に書き出されることがあります。「いや、正確には」といった独り言が記録に混ざる。そして独り言は、たいてい同じところを行き来します。
繰り返しは、エラーとして返ってこない
厄介なのはここです。
出力が長さの上限に当たって切れた場合は、そのことが結果に付いてきます。ところが繰り返しは、AI自身が「書き終えた」と判断して正常に終わります。 形式も崩れていません。項目はすべて埋まり、指定した構造に収まっている。受け取る側からは成功に見えます。
私たちの仕組みにも、AIに渡す前の検問はいくつもありました。会話が短すぎないか、すでに人が書いた記録を上書きしようとしていないか。ただ、それは全部「入口」の検問で、AIが何を書いたかを見る検問がひとつもありませんでした。
出力を見る検問を、どこに置くか
そこで、生成された記録そのものを見る仕組みを入れました。見ているのは4つです。
- 同じ文字列が連続していないか(機械的な繰り返し)
- 同じ文が何度も出てこないか(言い換えを含む重複)
- 欄ごとの字数が、その欄として不自然に長くないか
- AIの独り言や、内部の項目名が本文に混ざっていないか
気をつけたのは、項目を1つずつ列挙しないことです。列挙すると、様式に新しい欄が増えたときにその欄だけ検問を通りません。記録全体を歩いて文字列は全部見る形にすれば、欄が増えても自動的に守られます。
そして異常の種類で、打ち手を変えました。
繰り返しや独り言が見つかったときは、出力のばらつきをすぐ大きくして作り直します。 同じ設定でやり直しても、同じ確率の偏りに落ちるだけだからです。実際、以前は3回とも同じ設定でやり直していて、構造的に抜けられませんでした。
(2026年9月16日 補足)この手当てはやり直しを別の結果に振るためのもので、繰り返しそのものを止める効果は、後の追試ではほとんど確認できませんでした。止めるのは次の段の指示の書き方です。
一方、「長いだけ」のときは、ばらつきを変えません。 ばらつきを大きくしても文章は短くならないからです。ここは「短くまとめ直してください」と指示するのが正しく、それでも長ければそのまま保存します。 会話が濃かった日の記録は、正当に長いことがあります。
| 見つかったもの | なぜそうなるか | 打ち手 |
|---|---|---|
| 同じ文字列の連続・言い換えを含む重複 | 同じ設定でやり直しても、同じ確率の偏りに落ちる | 出力のばらつきを大きくして作り直す |
| AIの独り言や内部の項目名の混入 | 解釈が要る欄で迷った過程が、そのまま本文に出る | 同じく、ばらつきを大きくして作り直す |
| 欄として不自然に長い | ばらつきを大きくしても、文章は短くならない | 短くまとめ直すよう指示する。それでも長ければそのまま保存する |
| 訴えや相槌の反復 | 臨床的に正しい記載で、暴走とは続く長さが違う | 消さない。しきい値の外に置く |
直す仕組みが、正しい記録を消さないようにする
ここが、いちばん学びの大きかったところです。
繰り返しの検知は、もともと文字起こしの側で使っていた判定をそのまま持ってきました。入口と出口で同じ物差しを使えば、ずれが起きません。 そう考えたのですが、測ってみると問題がありました。
その判定は「文のどこかに、同じ短い並びが7回以上続いていたら異常」というものです。文字起こし全体を疑うにはこれでよいのですが、記録の1つの欄に当てるとこうなります。
本人より「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」との訴えあり。
繰り返しと判定されます。相槌の「うんうんうんうん……」も、笑い声も同じです。どれも臨床的には正しい記載で、消してはいけないものです。 それが「構造が壊れている」と判定され、直せなければ欄ごと空にされる。守りを入れたつもりが、記録を消す仕組みになっていました。
直したのは、繰り返しが実際にどれだけ続いているかを見ることです。本物の暴走は繰り返しの部分だけで数百字になり、訴えの反復は数十字です。あいだにしきい値を置けば分かれます。
大事なのは、しきい値を勘で決めなかったことです。過去に実際に壊れていた記録をすべて測り直し、「この判定だけが頼りだった記録は1件も無い」——つまり緩めても見逃しは増えないと確かめてから緩めました。確かめずに緩めていたら、検知の力を静かに落としていたはずです。
最後は捏造より欠落に倒しています。 作り直した結果をもう一度検査し、通ったものだけを採用する。どうしても直らない欄だけを既定の表現にして、記録全体は必ず保存します。 「もう一度録音し直してください」と現場に返すことはしません。
記録の様式は病院ごとに違います。どの欄にどこまで書くか、どの表現を定型にするかは、その病院の決まりごとです。AIに任せる範囲も、そこに合わせて決めるものだと考えています。
毎日の記録のうち、「毎回ほぼ同じことを書いている欄」「読み返すときに長すぎて困る欄」は思い当たるでしょうか。MENTRAはこの見張りを毎晩自動で動かしています。 人が気づく前に見つけて、直せるものは直しておく——その設計をそのまま製品に入れています。
いまの様式を見せていただくところからで構いません。AI看護記録をご覧いただき、気になる点はお問い合わせからお気軽にご相談ください。
よくあるご質問
検問に引っかかった記録は、現場の画面ではどう見えますか
作り直しは裏で終わるので、ふだんは何も見えません。どうしても直らなかった欄だけが既定の表現になり、記録そのものは必ず残ります。もう一度録音し直していただくことはありません。
出力のばらつきを大きくすると、記録の表現がぶれませんか
大きくするのは、繰り返しに入った状態から抜けるために作り直すときだけです。ふだんの生成は記録に向いた設定のままなので、通常の記録の言い回しが揺れることはありません。
判定のしきい値は、様式ごとに調整するものですか
値は勘ではなく、過去の記録を測り直して決めています。様式に固有の事情があれば、同じやり方で実際の記録を測ってから合わせます。見た目の印象で上げ下げすると、検知の力が静かに落ちるためです。
