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医療記録の「真正性」とは何か ― 精神科の記録で、誰が書いたかを確かにする
医療の記録には、それが誰の手によるものかが確かであること ―― 真正性 ―― が求められます。厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」が記録に求める条件のひとつです。
長いあいだ、これは人と人を区別する話でした。誰がログインし、誰が書き、誰があとから直したか。ところが記録づくりにAIが加わると、区別する相手がもうひとつ増えます。人が書いた記録と、機械が作った下書きです。
医療記録の「真正性」とは何か
ガイドラインが記録に求める真正性は、大きく2つに分けられます。
- 正当な権限で作成されたことが確かであること
- 作成されたあとに、故意や過失で書き換えられていないこと
前者について、MENTRAは操作の記録を追記専用で残し、ハッシュチェーンで連結しています。誰がいつ何をしたかを、あとから機械的に検証できる構造です。
この記事で扱うのは後者、書き換えられていないことのほうです。記録を書くのが人だけではなくなったとき、ここに新しい論点が生まれます。
記録を書くのが人だけでなくなると、何が変わるのか
精神科の記録は、診察室の中だけで生まれるわけではありません。訪問看護、福祉部門の訪問支援、多職種カンファレンス。MENTRAはその会話を録音から文字にし、様式に沿った下書きを作ります。
このとき、AIの下書きと人の記入は同じ欄に入ります。看護師が観察したこと、相談員が面談で聞き取ったこと、その隣に下書きが並ぶ。だから「あとから来たものが、先にあったものをどう扱うか」を決めておく必要があります。
普段の流れでは、順番は決まっています。録音が終わり、下書きができ、それを担当者が確かめて仕上げる。考えておくべきなのは、順番が入れ替わる場面です。
遅れて届いた下書きに、記録を明け渡さない
訪問先で録音した会話が、通信の都合ですぐには届かないことがあります。MENTRAは録音を端末に控えておき、次にアプリを開いたときに自動で送ります。送信が終われば端末からは消え、残っていても72時間で自動的に消えます。
ここで考えておくことがあります。録音がその日のうちに届かなければ、看護師は手で記録を書いているかもしれない。 翌日に下書きが届いたとき、それが手書きの記録の上に重なってはいけません。誰も操作していないのに記録の中身が変わる、というのは真正性そのものの問題です。
そこでMENTRAでは、遅れて届いた分析に「これは遅れて届いたものだ」という印を付けて送っています。 印の付いた分析は、記録に本文があればそこへは書き込まず、記録がまだ空であればそのまま下書きとして入ります。録音を失いかけた日の記録は救われて、人が書いた記録はそのまま残る、という分かれ方をします。
この印は、画面から「作り直す」を選んだときの合図よりも強く扱います。自動で送られてきたものには、それを選んだ人がいないからです。機械が人の同意を名乗れないようにしてある、という言い方がいちばん近いと思います。
「もう書かれている記録」を、どう見分けるのか
ここで実務的な問題が出ます。「本文があるかどうか」をどう判定するか、です。
素直に思いつくのは長さで測る方法です。ただ、これは成立しませんでした。 記録の様式は種別ごとに違うので、まだ何も書かれていない雛形の大きさも種別ごとに違います。実際のデータを見ると、ある種別の空の雛形のほうが、別の種別の書き上がった記録より大きいということが起きていました。ひとつのしきい値を全種別に当てはめれば、どこかの種別が必ず取りこぼされます。
そこで長さで測るのをやめ、**「中身のある文字がひとつでも入っているか」**で見分けています。雛形は、項目名だけが並んで値が空の状態です。そこに一言でも観察や経過が書き込まれていれば、人が書いた記録として扱います。判断のつかない入力は、守る側に倒します。
守りが効いていることを、どう確かめるのか
こうした決まりは、書いただけでは効きません。テストが緑であることは、守りが効いている証拠になりません。 テストがその守りを見ていなければ、壊れていても緑のままだからです。
MENTRAでは、記録を守る仕組みについては故意に壊して、テストが赤くなるかを1つずつ確かめています。 今回は34種類の壊し方を試しました。判定の向きを逆にする、条件をひとつ抜く、印を渡すのをやめる。そのすべてで失敗することを確認しています。
やってみると、当初2種類は、壊してもテストが緑のままでした。ひとつは、テストが複数の守りをまとめて見ていたために、片方を壊してももう片方に一致していたもの。もうひとつは、条件を消しても既定の動きに落ちるだけで、テストの見ている条件との違いが出なかったものです。どちらもテストの書き方の問題で、直しました。
この2つは、故意に壊さなければ見つかりませんでした。 守りをひとつ入れたら、それが成立しない条件をひとつ考える。医療の記録を預かるうえで、ここは省けないところだと考えています。
MENTRAではこれまでに1,227件・167.8時間の会話が記録に変わっています。診察・看護・面談・カンファレンス・福祉訪問の5種類すべてで、ここまでに書いた扱いは共通です。
AIが記録づくりに入ってくると、真正性は「誰がログインしたか」だけでは足りなくなります。人が書いたものを、機械が黙って引き取らない。 医療の記録を扱うシステムとして、そこは動かさずに作っています。
記録を預かる側として何をしているかはセキュリティの考え方に、導入までの進め方は導入の流れにまとめています。貴院の様式や運用にあわせた調整はご相談ください。
