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精神科の記録に求められる「保存性」とは何か
医療の記録には、「あとから確かに残っていること」が求められます。厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」が求める条件のひとつ、保存性です。
病院の中だけで記録が生まれるなら、これは主に保管の話になります。ところが精神科では、記録の多くが診察室の外で生まれます。訪問看護、福祉部門の訪問支援、多職種カンファレンス。保存性は、そこで通信の問題になります。
医療の記録に求められる三つの条件とは
ガイドラインが記録に求める条件は、大きく三つに整理されます。
- 真正性 — 誰がいつ書いたかが確かで、あとから書き換えられていないこと
- 見読性 — 必要なときに読める状態であること
- 保存性 — 定められた期間、失われずに保たれること
このうち真正性と見読性は、システムの中の話として設計できます。操作記録を追記専用で残す、権限を分ける、といった作りです。保存性だけは、記録がシステムに入る前の時間を含みます。 会話が録音された瞬間から、それがサーバに届くまでの間です。
なぜ保存性は、現場では通信の問題になるのか
精神科訪問看護では、1回の訪問が1時間近くになることもあります。その会話は、看護師の手元の端末で録音として生まれ、そこからサーバへ渡されます。
このとき通っているのは、病院内の安定した回線ではありません。集合住宅の奥、地下、移動中の車内、電波の弱い地域。送信が途切れることは、現実に起こります。 MENTRAの本番の記録を追うと、同じ録音が短い間に何度も送り直されていた形跡がありました。うまくいかなかったときに、現場の方が手で押し直していたということです。
記録として残すべき会話が、回線の都合で手元に留まってしまう。保存性という言葉は制度の用語ですが、現場ではこういう形をしています。
途切れたとき、MENTRAは何をしているか
MENTRAでは、送信が途切れたときの動きを次のように決めています。
- 自動で送り直す。 通信が原因の失敗は、間隔を空けて最大3回まで自動でやり直します。多くの場合、利用者は失敗が起きたことに気づきません
- それでも届かなければ、失敗を画面に残す。 数秒で消える通知にはしません。電波の良い場所に移ってから、その場でやり直せます
- 送り直しは、同じ録音を同じ置き場所へ。 何度やり直しても、音声が積み上がることはありません
- 送信が終わっていない録音があるまま画面を離れようとしたら、確認をはさむ。 端末にしかない録音を、操作の弾みで失わないためです
1と4は、利用者に何もさせないための仕組みです。 現場に手順を増やして守るのではなく、機械の側で吸収する。記録を残す作業は、それ自体が業務時間なので、守りのために工数が増えたら本末転倒になります。
同じ会話が二重に残らないのは、なぜ大事か
送り直しを入れると、今度は「同じ会話が2つ記録される」ことが起こり得ます。医療の記録でこれが起きると、どちらが本当の記録か分からなくなります。 追記や修正がどちらに入ったかも追えません。
MENTRAでは、送り直しのときも最初と同じ置き場所を使い、サーバ側でも同じ音声からふたつ目の記録を作らないようにしています。何回やり直しても、残るのは1件です。
失われていないことを、あとから確かめられるか
仕組みを入れても、想定していなかった経路は残ります。だから毎朝、預かった音声と、それに対応する記録が食い違っていないかを機械で照合しています。 食い違いが見つかれば運用側に通知が届き、その日のうちに追えます。
「失われない作りにした」ことと、「実際に失われていない」ことは別です。前者は設計、後者は観測でしか分かりません。
この仕組みは、診察・看護・面談・カンファレンス・福祉訪問の5種類の記録すべてで共通です。MENTRAではこれまでに1,227件・167.8時間の会話が記録に変わっていますが、その1件ずつが、こうした受け渡しを通っています。
記録を預かる側として何をしているかは、セキュリティの考え方にまとめています。実際の運用に耐えるかどうかは現場によって違うので、貴院の環境でどう動くかは個別にご相談ください。
