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BPRSとは何か ― 精神科の記録で18項目をどう付けるか
目次
BPRS(Brief Psychiatric Rating Scale/簡易精神症状評価尺度)とは、18の項目をそれぞれ1〜7点で付ける、精神症状全般の評価尺度です。1962年にOverallとGorhamが発表し、統合失調症に限らず幅広い精神症状を短時間で網羅的に見られることから、いまも臨床試験や研究、病棟での経過の記録に使われています。
項目が18と多く、面接の手順も決まっているので、GAFのように1つの数字で済む尺度とは付け方の考え方が違います。この記事では、BPRSの構成と付け方の原則、そして点数を記録に残すときに起きる問題を整理します。
BPRSは、どこで使われるのか
BPRSは診療報酬の算定要件に名指しで出てくる尺度ではありません。使われる場面は主に3つです。
- 臨床試験・自主研究 — 治療の前後で症状の変化を数字で示すとき。BPRSが最も多く使われてきた場面です
- 病棟での経過の記録 — 入院時・退院時・転棟時など、節目で症状の全体像を残すとき
- 多職種で状態を共有するとき — 医師・看護・心理・福祉が同じ18項目で話せるようにするとき
疾患を限定しない項目が多いので、統合失調症以外の患者さんにも使えるのが特徴です。一方で、統合失調症の陽性・陰性症状を詳しく見たいときは、BPRSの18項目を含む30項目のPANSSが使われます。
18項目の構成
BPRSは作成当初は16項目でしたが、1966年に原著者らが「興奮」「失見当識」の2つを加え、18項目版が広く使われるようになりました。項目は、患者さんの話から評価するものと、面接中の様子を観察して評価するものに分かれます。
| 番号 | 項目 | 主な手がかり |
|---|---|---|
| 1 | 心気症 | 患者さんの話 |
| 2 | 不安 | 患者さんの話 |
| 3 | 情動的引きこもり | 面接中の様子 |
| 4 | 概念の統合障害 | 面接中の様子 |
| 5 | 罪責感 | 患者さんの話 |
| 6 | 緊張 | 面接中の様子 |
| 7 | 衒奇症と不自然な姿勢 | 面接中の様子 |
| 8 | 誇大性 | 患者さんの話 |
| 9 | 抑うつ気分 | 患者さんの話 |
| 10 | 敵意 | 🔴 面接の外の情報 |
| 11 | 猜疑心 | 患者さんの話 |
| 12 | 幻覚による行動 | 患者さんの話 |
| 13 | 運動減退 | 面接中の様子 |
| 14 | 非協調性 | 面接中の様子 |
| 15 | 不自然な思考内容 | 患者さんの話 |
| 16 | 情動の平板化 | 面接中の様子 |
| 17 | 興奮 | 面接中の様子 |
| 18 | 失見当識 | 患者さんの話 |
18項目のうち「敵意」だけは、面接の場面ではないところで他者にどう振る舞っているかを評価します。そのため病棟の看護スタッフやご家族など、関係者からの情報が要ります。ここを面接の印象だけで付けると、他の17項目と手がかりの種類がずれてしまいます。
評点は1〜7の7段階
各項目は定義にもとづいて、症状なし(1点)から最重度(7点)の7段階で付けます。点数が高いほど、その症状が重いことを表します。
| 点 | 段階 |
|---|---|
| 1 | 症状なし |
| 2 | ごく軽度 |
| 3 | 軽度 |
| 4 | 中等度 |
| 5 | やや重度 |
| 6 | 重度 |
| 7 | 最重度 |
合計点は18点から126点の範囲になります。ただし合計点は、どの項目が動いたのかを表しません。合計が同じ50点でも、幻覚が下がって抑うつが上がった50点と、何も動いていない50点は別の状態です。記録に残すときにここが効いてきます(後述)。
付け方の原則 ― 評価期間と面接の型
評価期間は最近1週間が基本です。特に指定がなければ、最近1週間の情報にもとづいて付けます。1週間のうちに症状が動いたケース――たとえば5日前まで強い幻聴があり、この2、3日はほとんど聞こえなくなった――では、1週間のうちでいちばん具合の悪かった時点を基準に付けます。
面接の手順も決まっていて、3つの期に分けて進めます。
- ラポールの確立 — 面接の目的を説明する
- 非指示的相互作用 — 自発的な発言や行動を引き出し、それをもとに重症度を明らかにする
- 直接的な質問 — 2期までに言及されなかった項目を質問する
最初から項目順に質問すると、患者さんが「検査されている」と感じて自発的な話が出なくなります。先に自由に話してもらい、足りない項目だけあとから聞くのが型です。
評点で起きやすい偏りも、マニュアルに明記されています。重症例ばかり診ている評価者は、やや重度のケースを軽く付けがちです。逆に初発例や軽症例ばかり診ている評価者は、重く付けがちです。BPRSの評価には評価者トレーニングが要る、と言われるのはこのためです。
記録に残すとき、何が起きるか
ここからが、尺度の解説にはあまり書かれていない話です。BPRSを付けたあと、その点数を記録に残す段階で、実務では3つの問題が起きます。
1つ目は、点数だけが残って根拠が残らないこと。 「BPRS 48」と書いてあっても、次に読む人は18項目のどこが高いのか分かりません。項目ごとの点数を残す、あるいは高かった項目と根拠を1行そえるだけで、次の評価者が同じ基準で付けられます。
2つ目は、前回の点数に引っ張られること。 前回のBPRSを見ながら今回を付けると、「前回4だったから今回も4くらい」という付け方になります。これは評価者間のぶれとは別の、同じ評価者の中で起きるぶれです。付けるときは前回を見ず、付け終わってから比べる、という順番が要ります。
3つ目は、本文と点数が食い違うこと。 記録の本文には「幻聴の訴えは落ち着いている」とあるのに、「幻覚による行動」の点が前回と同じ5、という記録は実際に起きます。本文と点数が別の場所・別のタイミングで書かれると、こうなります。同じ画面・同じタイミングで残すと、食い違いは起きにくくなります。
経過を見るときは、合計点ではなく項目で見る
BPRSを経時で並べるとき、合計点の折れ線だけを見ると変化を見逃します。合計が横ばいでも、幻覚が下がって抑うつが上がっていれば、治療の焦点は変わっています。
見るべきなのは動いた項目です。18項目を毎回表にして残してあれば、「猜疑心が6→3に下がった」「情動的引きこもりは5のまま」という読み方ができます。合計点はその要約です。
MENTRAでは、尺度をどう記録に置いているか
MENTRAの看護記録では、GAFの入力欄を記録を書く流れの中に置き、その日の会話から作った目安の値と、看護師の方が確定した値、根拠の1行を同じ画面に残しています(看護記録にGAF尺度を追加しました)。別の紙に転記する作業を作らず、数字と根拠が同じ場所に並ぶようにするためです。
BPRSのように面接で付ける尺度も、点数・評価日・根拠を記録の本文と同じ場所に残すという形は同じです。項目ごとの点数を構造化して残しておけば、前回との比較も項目単位でできます。貴院で使っている尺度や様式に合わせて記録の欄を組めるかは、個別に検討してご提案しています。AIカルテ・診療記録の仕組みとあわせて、お気軽にご相談ください。
参考
- 山梨県立北病院 宮田量治「BPRS 日本語版・評価マニュアル(Ver. 1.1)」(2013年。項目の定義・評点基準・評価期間・面接の3期・評価者の偏り)
- 一般社団法人 日本精神科評価尺度研究会「BPRS (Brief Psychiatric Rating Scale) 簡易精神症状評価尺度」
- Overall JE, Gorham DR. The Brief Psychiatric Rating Scale. Psychological Reports 1962; 10: 799-812(原著)
よくあるご質問
BPRSは誰が付けるものですか
面接をした評価者が付けます。医師に限らず、評価トレーニングを受けた看護師や心理職が付けている施設もあります。18項目のうち「敵意」だけは面接の外での様子が必要なので、病棟スタッフやご家族からの情報を合わせます。
評価期間はどのくらいですか
特に指定がなければ最近1週間の情報にもとづいて付けます。1週間のうちで症状が動いた場合は、いちばん具合の悪かった時点を基準に付けるのが原則です。
PANSSとはどう違いますか
BPRSは18項目で疾患を限定せず幅広く見る尺度、PANSSは統合失調症の陽性・陰性症状に焦点を当てた30項目の尺度です。PANSSの30項目にはBPRSの18項目が含まれています。短時間で網羅的に見るならBPRS、統合失調症の症状構造を詳しく見るならPANSSという使い分けになります。
合計点だけを記録すればよいですか
合計点だけだと、どの項目が動いたのかが次に読む人に伝わりません。合計点と一緒に、動いた項目とその根拠を1行そえておくと、あとから経過を追えます。
