テックブログ

MADRSとは何か ― 10項目・0〜60点の付け方と、経過の残し方

目次
  1. MADRSは、どこで使われるのか
  2. 10項目の構成 ― 各0〜6点
  3. 合計点の帯 ― 目安として使う
  4. 付け方の原則 ― 評価期間と面接
  5. HAM-Dとの違い
  6. 記録に残すとき、何が起きるか
  7. MENTRAでは、尺度をどう記録に置いているか

MADRS(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale/モンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度)とは、抑うつの中核症状10項目をそれぞれ0〜6点で付ける、面接者評価の尺度です。1979年にMontgomeryとÅsbergが、包括的精神病理学評価尺度(CPRS)から抑うつの評価に使う10項目を抜き出して作りました。

MADRSの特徴は、治療による変化を追うことに向いた構成であることです。HAM-Dと並んで抗うつ薬の臨床試験で広く使われ、日本語版は日本精神科評価尺度研究会の解説書とトレーニング教材が整備されています。この記事では、構成と付け方、HAM-Dとの違い、そして点数を記録に残すときの原則を整理します。

MADRSは、どこで使われるのか

MADRSは診療報酬の算定要件に名指しで出てくる尺度ではありません。使われる場面は主に3つです。

  • 臨床試験 — 抗うつ薬の有効性を示す主要な指標として、HAM-Dと並んで使われます
  • 治療の前後の比較 — 薬を変えた前後、あるいは治療開始から数週間ごとの変化を追うとき
  • HAM-Dとの併用 — 状態の全体像はHAM-D、変化の追跡はMADRSと分けて付ける施設もあります

MADRSがCPRSから抜き出された10項目である、という成り立ちは、使い方に効いています。CPRSの65項目のうち「治療によって変化しやすい抑うつの項目」を選んで作られたので、身体症状や不安の項目が少なく、そのぶん抑うつそのものの変化が合計点に出やすい構成です。

10項目の構成 ― 各0〜6点

番号 項目 手がかり
1 外見に表出された悲しみ 面接者の観察
2 言葉で表現された悲しみ 患者さんの話
3 内的緊張 患者さんの話
4 睡眠減少 患者さんの話
5 食欲減退 患者さんの話
6 集中困難 患者さんの話
7 制止 面接者の観察・患者さんの話
8 感情を持てないこと 患者さんの話
9 悲観的思考 患者さんの話
10 自殺思考 患者さんの話

各項目は0〜6点の7段階で、偶数点(0・2・4・6)に評価基準の文言が置かれ、奇数点はその中間として付けます。合計点の範囲は0〜60点です。

HAM-Dと違って、すべての項目が同じ0〜6点なので、合計を出すときに項目ごとの範囲を気にする必要がありません。そのぶん、どの項目が動いたかは合計点からは読み取れないので、記録の側で残す必要があります(後述)。

合計点の帯 ― 目安として使う

合計点 目安
0〜6 正常の範囲
7〜19 軽症
20〜34 中等症
35〜60 重症

臨床試験では、治療によって合計点が半分以下になったことを反応の目安に、一定の閾値以下(研究によって10点以下・12点以下など)を寛解の目安に置くことが多いです。帯の区切りも寛解の閾値も研究によって少しずつ違うので、記録にはどの区切りを使ったかを残しておきます。

付け方の原則 ― 評価期間と面接

評価期間は過去1週間です。面接者が患者さんと面接し、話の内容と面接中の様子から各項目を付けます。1「外見に表出された悲しみ」だけは面接者の観察で付ける項目で、2「言葉で表現された悲しみ」は患者さんの言葉で付けます。この2つがずれる――本人は「大丈夫」と言うが表情と声が沈んでいる――ことは実際にあり、そのずれ自体が記録に残す価値のある情報です。

HAM-Dと同じく、項目の解釈に評価者の幅が出ることがあるため、質問の仕方と評点の基準を定めた構造化面接ガイドが作られています。同じ施設の中で同じガイドを使うことが、評価者間のぶれを減らす前提です。

HAM-Dとの違い

HAM-D(17項目) MADRS
項目数 17 10
評点 項目により0〜4または0〜2 すべて0〜6
合計 0〜52 0〜60
身体症状・不安の項目 多い 少ない
向く用途 状態の全体像 治療による変化の追跡
原著 Hamilton 1960 Montgomery & Åsberg 1979

どちらか一方が優れているというより、何を残したいかで選びます。初診時の全体像はHAM-D、治療開始後の変化はMADRS、という分け方は一つの型です。

記録に残すとき、何が起きるか

MADRSを付けたあと、記録に残す段階で起きる問題は、他の尺度と同じ3つです。

点数だけが残って根拠が残らない。 「MADRS 22」とだけ書かれていると、次に読む人は睡眠が悪いのか、悲観的思考が強いのか分かりません。項目ごとの点数を残す、あるいは高かった項目と根拠を1行そえるだけで、次の評価者が同じ基準で付けられます。

前回の点数に引っ張られる。 変化を追うための尺度であるほど、「前回より良くなっているはず」という期待が評点に混ざります。付けるときは前回を見ず、付け終わってから比べる、という順番が要ります。

本文と点数が食い違う。 記録の本文には「食事は普通に摂れている」とあるのに、食欲減退が前回と同じ4、という記録は、本文と点数を別の場所・別のタイミングで書くと起きます。同じ画面・同じタイミングで残すと、食い違いは起きにくくなります。

MENTRAでは、尺度をどう記録に置いているか

MENTRAの看護記録では、GAFの入力欄を記録を書く流れの中に置き、その日の会話から作った目安の値と、看護師の方が確定した値、根拠の1行を同じ画面に残しています(看護記録にGAF尺度を追加しました)。別の紙に転記する作業を作らず、数字と根拠が同じ場所に並ぶようにするためです。

MADRSのように変化を追う尺度では、項目ごとの点数を構造化して残しておくことで、帯をまたいだかどうかも、動いた項目も、あとから数え直さずに出せます。貴院で使っている尺度や様式に合わせて記録の欄を組めるかは、個別に検討してご提案しています。AIカルテ・診療記録の仕組みとあわせて、お気軽にご相談ください。


参考

  • 一般社団法人 日本精神科評価尺度研究会「MADRS」(CPRSからの10項目抽出・日本語版の解説書『MADRSを使いこなす 改訂第3版』とトレーニング教材)
  • Montgomery SA, Åsberg M. A new depression scale designed to be sensitive to change. British Journal of Psychiatry 1979; 134: 382-389(原著)
  • 医療法人社団こころみ「【専門家が解説】HAM-D(ハミルトンうつ病評価尺度)」(HAM-Dとの比較のため)

よくあるご質問

MADRSとHAM-Dはどちらを使えばよいですか

目的で分けます。HAM-Dは身体症状や不安を含む幅広い構成で、状態の全体像を残すのに向きます。MADRSは抑うつの中核10項目に絞っていて、治療による変化に反応しやすい構成です。同じ患者さんで両方を付けている施設もあります。

評価期間はどのくらいですか

過去1週間の状態にもとづいて付けます。面接での話と様子に加えて、必要なら家族やスタッフからの情報も合わせます。

「外見上の悲しみ」と「報告された悲しみ」は何が違いますか

前者は面接者が観察した表情・声・姿勢から付ける項目、後者は患者さん自身が言葉で述べた気分から付ける項目です。この2つがずれること自体が、記録に残す価値のある情報です。

合計点が何点なら寛解ですか

臨床試験では合計点が一定の閾値(10点以下、あるいは12点以下など)を寛解の目安に置くことが多いですが、研究によって違います。記録には、どの閾値を使ったかを残しておくと、あとから読む人が迷いません。

↑ このページの先頭へ

まずは、30分だけ話を聞かせてください。

今の記録の流れを伺うところからで大丈夫です。資料の準備は不要です。

精神科病院からメンタルクリニックまで、規模を問わず。院内の運用に合わせた調整もご相談ください。