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隔離・身体的拘束の要件と記録 ― 告示130号・観察の間隔・記載例

目次
  1. 根拠 ― 法第36条・第37条と告示第130号
  2. 対象の要件 ― 代替方法がない場合に限る
  3. 観察の間隔 ― 告示に分の数字は無い
  4. 診療録に残す事項
  5. 看護記録に残す事項
  6. 記載例(架空の例)
  7. 開始から解除までの時系列を、どう追える形にするか
  8. 一般病床の「身体拘束」とは、記録の根拠が違う
  9. MENTRAでは、看護の記録をどう作っているか

精神科の隔離と身体的拘束は、精神保健福祉法第36条・第37条と、それにもとづく厚生省告示第130号(処遇の基準)で要件が定められた行動制限です。対象になる患者さんの要件、本人への告知、診療録の記載、医師の診察の頻度がそれぞれ決まっていて、記録が要件そのものになっています。

この記事では、隔離と身体的拘束の要件を整理したうえで、診療録と看護記録にそれぞれ何を残すか、開始から解除までの時系列をどう追える形にするかを書きます。

根拠 ― 法第36条・第37条と告示第130号

精神保健福祉法第36条は、精神科病院の管理者が「入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる」と定めています。第37条は、厚生労働大臣が処遇の基準を定めることを規定し、その基準が昭和63年厚生省告示第130号です。

告示(昭和63年厚生省告示第130号)は、隔離と身体的拘束のそれぞれについて、基本的な考え方・対象となる患者・遵守事項(告知・診療録の記載・診察の頻度・観察)を定めています。隔離は「本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く、隔離以外の方法ではその危険を回避することが著しく困難であると判断される場合」に、その危険を最小限に減らすために行うもの、とされています。

本人の意思で閉鎖的環境の部屋に入る場合は隔離に当たりませんが、本人の意思による入室である旨の書面を得ることが求められます。これも記録の対象です。

各病院はこれにもとづいて行動制限最小化に関する指針を作り、医療保護入院等診療料の施設基準として行動制限最小化委員会を置いています。

対象の要件 ― 代替方法がない場合に限る

隔離 身体的拘束
対象 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある/自殺企図・自傷行為が切迫している/他の患者に対する暴力行為や著しい迷惑行為・器物破損があり他の方法で防ぎきれない/急性精神運動興奮で一般の病室では医療や保護が困難/身体的合併症で検査・処置のために必要 自殺企図・自傷行為が著しく切迫している/多動・不穏が顕著である/放置すれば生命に危険が及ぶおそれがある
共通の前提 いずれも、他に代替方法がない場合に限る 同左
指定医の関与 12時間を超える場合は精神保健指定医の判断 精神保健指定医の判断
医師の診察 少なくとも毎日1回 頻回に
観察 定期的な会話等による注意深い観察 常時の臨床的観察
告知 隔離を行うに当たってのお知らせ(様式) 身体拘束を行うに当たってのお知らせ(様式)

「代替方法がない」ことは、要件であると同時に記録の対象です。どんな代替方法を試み、なぜそれでは足りなかったかが残っていなければ、要件を満たしたことを示せません。

身体的拘束には、目的のために特別に配慮して作られた衣類又は綿入り帯等を使い、手錠等の刑具類や、ほかの目的に使う紐・縄などは使ってはならない、とも定められています。12時間を超えない隔離は指定医でない医師も判断できますが、その場合も要否の判断は医師が行います。

観察の間隔 ― 告示に分の数字は無い

告示が求めているのは、隔離では「定期的な会話等による注意深い臨床的観察」、身体的拘束では「原則として常時の臨床的観察」です。何分ごとという数字は告示にありません。 日本精神科救急学会のガイドラインも「看護師の観察について法的に明確な回数の設定はない」としています(精神科救急医療ガイドライン2022年版 第5章)。

そのため、間隔は各病院の指針で決めています。公開されている指針の例と、ガイドラインの推奨を並べます。

隔離 身体的拘束 出典
告示 定期的な会話等による注意深い臨床的観察 原則として常時の臨床的観察 告示130号 第三・第四
医師の診察 原則として少なくとも毎日1回 頻回に 告示130号
看護の観察(病院の指針の例) 30分ごと 15分ごと 飛鳥病院 行動制限最小化指針(令和5年9月)
ガイドラインの推奨 体位の変化が2時間見られなければ、直ちに身体観察 観察ごとに拘束具の固定・装着状態と拘束部位の異常の有無を直接確認 精神科救急医療ガイドライン2022年版 第5章

自院の間隔がどこに書かれているか(指針・観察シート・看護手順)を確かめ、記録の時刻がその間隔で並んでいるかを見られる形にしておくと、行動制限最小化委員会での振り返りがそのまま記録から行えます。

診療録に残す事項

医師が診療録に記載する事項は、次のとおりです。

何を いつ
行動制限を行った医師の氏名(指定医かどうか) 開始時
行動制限の内容(隔離/身体的拘束、拘束の部位) 開始時
理由と、そのときの症状 開始時
試みた代替方法と、それで足りなかった理由 開始時
本人への告知を行ったこと 開始時
開始の年月日と時刻 開始時
診察の所見と、継続の要否 隔離は毎日1回以上、身体的拘束は頻回に、そのつど
解除の年月日と時刻 解除時

「開始と解除の日時」は、時刻まで要ります。隔離が12時間を超えたかどうか、身体的拘束が何時間続いたかは、時刻がないと分かりません。

日本精神科救急学会のガイドラインは、開始時の記録として「どのような症状があり、どのような目的で、どのような内容の行動制限を、誰が判断し、誰が告知(説明)して、いつ開始したのか」を挙げ、あわせて代替方法が検討された経緯・告知時の患者の反応・家族への報告と説明の経緯・同意の有無の記載も考慮すべきとしています。上の表の「試みた代替方法」と「告知」は、この考え方に沿ったものです。

看護記録に残す事項

看護記録は、診療録の「開始」と「解除」のあいだを埋める記録です。

身体的拘束中は、常時の臨床的観察が求められます。観察の時刻と内容――意識・呼吸・循環・皮膚の状態・拘束部位の状態・体位の変換・水分と食事・排泄――を、施設の指針で定めた間隔で残します。

隔離中は、定期的な会話等による注意深い観察と、食事・排泄・清潔・睡眠などの生活の状況を残します。本人の言葉や様子の変化は、解除に向けた評価の材料になります。

どちらも、解除に向けて何を見ているかが記録に入っていると、医師の診察のたびに継続の要否を判断する材料になります。「変わりなし」の繰り返しでは、解除の判断材料になりません。

記載例(架空の例)

身体的拘束の開始から解除までを、診療録と看護記録を合わせて一本の時系列で読める形にした例です。実在の患者さんの記録ではなく、説明のために作った架空の例で、氏名・病名は載せていません。観察の間隔は、上の指針の例(15分ごと)に合わせています。

時刻 記録者 種類 内容
14:05 医師(指定医) 診療録 興奮が強く点滴の自己抜去を繰り返す。声かけ・付き添い・環境調整を試みたが鎮まらず、ほかに代替方法がないと判断。体幹・両上肢の身体的拘束を開始。理由を本人に説明し、お知らせ(様式)を手渡した
14:05 看護師 看護記録 拘束開始。拘束部位の皮膚に発赤なし。呼吸・脈拍を確認
14:20 看護師 看護記録 拘束具の固定・装着状態を確認。四肢末梢の冷感なし。「外してほしい」と繰り返す
14:35 看護師 看護記録 水分100mL摂取。体位変換
16:00 医師 診療録 診察。興奮はやや落ち着くが点滴は継続中。継続が必要と判断。解除の条件(点滴終了・会話で落ち着きが保てる)を看護と共有
18:10 看護師 看護記録 点滴終了。会話に落ち着いて応じる
18:20 医師(指定医) 診療録 診察。解除の条件を満たしたため、体幹・両上肢の拘束を解除

時刻・誰が・何を見て・次に何を待っているかが各行に入っていると、継続の判断と解除の判断が記録からたどれます。(例では15分ごとの観察の行を一部省いています)

開始から解除までの時系列を、どう追える形にするか

隔離・身体的拘束の記録で起きる問題は、要件のそれぞれが別の場所に残ることです。

診療録と看護記録が別の時系列になっている。 医師の開始の記載、看護の観察、医師の診察、解除の記載が、それぞれ別の帳票にあると、開始から解除までを一本の時系列として読むのに、めくる作業が要ります。

時刻が抜ける。 日付だけで時刻がない記録は、12時間の判断ができません。

告知の記録が抜ける。 告知の様式を渡したことが、診療録にも看護記録にも残っていないことがあります。

代替方法の記録が抜ける。 「隔離開始」と「理由」はあっても、何を試みてなぜ足りなかったかが残っていない記録は、要件の「代替方法がない」を示せません。

一覧で見られる台帳がない。 医療保護入院等診療料の通知は、隔離と身体的拘束が必要最小限の範囲で行われていることを「常に確認できるよう、一覧性のある台帳が整備されていること」を求めています。行動制限最小化委員会は、少なくとも月1回の評価を行います(I014 医療保護入院等診療料 通知(5)(6))。一人ひとりの記録とは別に、誰が・いつから・何を行動制限されているかを並べた一覧が要る、ということです。

一般病床の「身体拘束」とは、記録の根拠が違う

令和6年度の診療報酬改定で、入院料の施設基準に身体的拘束最小化の基準が入り、身体的拘束を行う場合は「その態様及び時間、その際の患者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由」を記録することになりました。令和8年度改定では、実施割合などの実績等に係る基準が加わっています。

ただし、どちらも精神病床については精神保健福祉法の規定によるとされています(令和6年度改定の概要/令和8年度改定の概要。令和8年度は、精神保健福祉法の規定に基づいて扱う場合は基準を満たしているものとみなす)。

一般病床 精神病床
根拠 入院料の施設基準(身体的拘束最小化の基準) 精神保健福祉法第36条・第37条、告示130号
記録の中心 態様と時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由 理由と症状・開始と解除の日時(診療録)・指定医の判断・告知
体制 身体的拘束最小化チーム・指針・研修 行動制限最小化委員会(月1回以上)・一覧性のある台帳

精神病床のある総合病院では、同じ「拘束」でも病棟によって記録の根拠と様式が変わります。どちらの様式で書くのかを病棟ごとに決めておくと、記録の抜けが起きにくくなります。

MENTRAでは、看護の記録をどう作っているか

MENTRAのAI看護記録は、看護の会話や観察から記録の下書きを作り、看護師の方が確認して確定する形です。記録には時刻が自動で入り、記録の種類ごとに項目を持てます(看護記録に対応しました)。

行動制限の記録のように、開始・観察・診察・解除が時刻つきで一本の時系列に並んでいることが要件になる場面で、記録の構造をどう持つかは、施設の指針と運用に合わせて個別に検討してご提案しています。AI看護記録の仕組みとあわせて、お気軽にご相談ください。同じ「精神保健福祉法の記録」では、医療保護入院者退院支援委員会の開催時期と審議記録も整理しています。


参考

よくあるご質問

隔離と身体的拘束を行えるのはどんなときですか

精神保健福祉法第36条は、医療または保護に欠くことのできない限度で行動の制限を認めています。隔離は、他の患者との関係悪化や自傷・暴力の切迫、精神運動興奮などで、他に代替方法がない場合に限られます。身体的拘束は、自殺企図や自傷行為が著しく切迫している場合、多動・不穏が顕著な場合、放置すれば生命に危険が及ぶおそれがある場合で、他に代替方法がない場合に限られます。

精神保健指定医の関与は必要ですか

12時間を超える隔離と、身体的拘束は、精神保健指定医の判断が要ります。12時間を超えない隔離は指定医以外の医師でも行えますが、その場合も診療録の記載は要ります。

診療録には何を書きますか

行動制限を行った医師の氏名、行動制限の内容・理由・そのときの症状、開始と解除の年月日と時刻、診察の所見と継続の要否です。隔離は少なくとも毎日1回、身体的拘束は頻回に医師が診察し、そのつど記載します。

看護記録には何を書きますか

身体的拘束中は常時の臨床的観察が求められ、観察の時刻と内容を記録します。隔離中も定期的な観察と、食事・排泄・清潔などの状況を残します。開始から解除までの時系列が、診療録と看護記録を合わせて追えることが要ります。

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